大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)865号 判決 1966年4月12日

上告人

中島豊

右訴訟代理人

水崎幸蔵

被上告人

常盤産業株式会社

右代表取締役

斉藤満

右訴訟代理人

石田市郎

被上告人

溝上善信

主文

原判決中、上告人と被上告人溝上善信間の請求事件および右事件に対する被上告人常盤産業株式会社の当事者参加申出事件ならびに上告人と被上告人常盤産業株式会社間の売買無効確認請求事件に関する部分を破棄して、これを福岡高等裁判所に差し戻す。

その余の上告を棄却する。

前項の上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人水崎幸蔵の上告理由第一、二点について。

一件記録によると、本件第一審(福岡地方裁判所直方支部)において、原告(上告人)は、被告常盤産業株式会社(以下常盤産業と略記する。被上告人)および被告溝上(被上告人)を共同被告として、売買無効確認等の請求訴訟(同庁昭和三三年(ワ)一〇六号事件)を提起したところ、昭和三四年三月三日(第二回口頭弁論期日)弁論が分離され、被告溝上は原告の請求原因事実を全部認める旨陳述したため、同被告に対する弁論が終結され、判決言渡期日がおつて指定とされたこと(以下この部分の事件を甲事件という)、その後原告と被告常盤産業間の訴訟(以下この部分の事件を乙事件という)においてのみ証拠調その他の訴訟手続が続行されたこと、同三六年一〇月二七日付で原告と被告溝上間の訴訟(甲事件)について弁論が再開されたこと、ところが、同三七年二月一九日被告常盤産業は、原告と被告溝上間の前記訴訟(甲事件)に、右両名を相手方として民訴法七一条の規定により本件物件が参加人の所有であることの確認および原告に対し右物件の明渡を求める旨の参加の申出をしたこと(同庁昭和三七年(ワ)一九号事件。以下この事件を丙事件という)、そこで、第一審裁判所は、同年二月二一日(第一九回口頭弁論期日)に、原告と被告常盤産業の訴訟(乙事件)に、前記原告と被告溝上間の訴訟(甲事件)ならびに参加人常盤産業と原告および被告溝上間の参加訴訟(丙事件)を併合したところ、参加人常盤産業においては、前記の参加申出の趣旨を陳述するとともに、原告から参加人常盤産業に対してされた所有権移転登記の有効である旨の原告と被告常盤産業間の訴訟(乙事件)における主張・立証を援用する旨を陳述したこと、一方、原告においても前記訴訟(乙事件)における主張・立証を援用する旨陳述したのに反し、被告溝上においては、参加人常盤産業の主張事由をすべて争う、すなわち、否認する旨を陳述し、参加人常盤産業におていは、さらに同参加人の主張事実に反する部分は争う旨述べたこと、第一審裁判所は、同期日において前記のすべての訴訟の弁論を終結して同三七年四月一七日判決を言い渡したこと、その後、第二審において、第一回口頭弁論期日(同三七年七月一八日)に被告兼参加人常盤産業訴訟代理人および原告訴訟代理人出頭のもとに(ただし被告溝上は不出頭)、控訴状が陳述され、第一審の口頭弁論の結果が陳述され、その後、被告溝上の陳述がなんら訂正されないまま、各訴訟が分離されることなく手続が進められたうえ、第二審の口頭弁論が終結されて判決が言い渡されていることが認められる。

以上の訴訟の経過によると、甲事件および丙事件(原告中島と被告溝上間の請求ならびに常盤産業からの原告中島・被告溝上に対する当事者参加による請求に関するもの)については、民訴法七一条の規定による常盤産業からの当事者参加の申出があるから、同条の規定により準用される六二条の規定により訴訟の目的が全員について合一にのみ確定されるべきものであつて、原告中島および被告溝上は、同条の規定による必要的共同訴訟人と同一の関係に立つことになり、右両名間の各訴訟行為は、右両名の利益においてのみ効力を生じ、その不利益においてはその効力を生じないものというべきである。

そして、原告中島と被告常盤産業間の訴訟(乙事件)において主張したところの常盤産業の主張事実は、前述したとおり、前記各訴訟の併合後の第一審の第一九回口頭弁論期日(同三七年二月二一日)において、被告溝上によりすべて争われているのであるから、右被告溝上の常盤産業の主張事実を否認する旨の訴訟行為の効力は、民訴法六二条一項の規定に基づき、原告中島との関係においても、その効力を生じ、したがつて、原告中島の乙事件における主張ないし陳述のいかんにかかわらず、常盤産業の甲事件および丙事件における主張事実は、右両事件に関するかぎり、訴訟法上すべて争われていることになるのである。

ところで、原判決は、原告の被告溝上に対する請求(甲事件)および被告常盤産業に対する請求(乙事件)ならびに常盤産業の原告および被告溝上に対する参加請求(丙事件)の当否について、原判示のように当事者間に争いない事実を確定し、甲第一号証の一ないし三、同第五および第六号証の各一、二、同第七号証、乙第一号証の四ないし六、同第五号証についていずれも成立に争いがなく、乙第一号証の一ないし三、同第二ないし四号証について原判示の証拠によりその成立を認め、原判示の証人および常盤産業代表者斉藤満の各供述を綜合したうえ、原判示の確定した事実関係を認定していることは、その判文上明らかである。

そこで、まず、原告の被告常盤産業に対する請求(乙事件)の当否について判断するに、原判決挙示の証拠関係に照らせば、原判決の事実認定およびその判断過程はこれを是認することができるところ、原告の売買無効確認請求の適否について職権をもつて案ずるに、その請求の原因の要旨は、原告と被告溝上間の売買およびその登記は無効であり、したがつて、所有権のない被告溝上と悪意の第三者たる被告常盤産業間の昭和三二年一一月二七日付売買も無効であるから、右売買の無効確認を求めるというのであるが、単に右請求を文言どおりに解釈すれば、前記売買契約の無効であること、すなわち、過去の法律関係(ないし事実)の確認を求めるのと異なるところはない。そして、確認訴訟は特段の規定のないかぎり、現在の権利または法律関係の確認を求め、かつ、これにつき即時確定の利益がある場合にのみ許されるべきであるから、前記の請求については、即時確定の利益があるとはいいがたい。原告としては、確認の訴を提起するためには、右売買契約の無効の結果生ずべき現在の権利または法律関係について直接に確認を求めるべきである。もつとも、右請求を原告の主張するところに照らせば、原告は、右のような現在の権利または法律関係についてその確認を求める趣旨がうかがえないでもない。したがつて、原審としては、本訴請求については、その請求の趣旨を釈明して審理をすべきであるのにかかわらず、これをしないで、ただちに本訴請求について確認の利益のあることを前提として本案について判決した原判決は違法であつて、破棄を免れず、以上の点についてさらに釈明して審理を尽くさせるため、売買無効確認請求部分は、原審に差し戻すのが相当である。

つぎに、原告の被告溝上に対する請求(甲事件)ならびに常盤産業の原告および被告溝上に対する参加請求(丙事件)の当否について判断するに、この点の原判決の説示も、そのままでは是認しがたい。すなわち、前述のように、常盤産業が乙事件において提出した乙各号証に関し、丙事件で被告溝上はなんら認否をしていないのであり、しかも、甲、丙両事件については、常盤産業の主張事実は、原告の乙事件における主張ないし陳述のいかんにかかわらず、訴訟法上すべて争われているものと解すべき以上、右両事件に関するかぎり、乙各号証の成立は当事者間に争いがないものと解することはできないのである。

果してしからば、原判決は、右両事件について、成立に争いがある乙各号証について成立に争いがない旨説示して証拠に供し、事実認定の資料として用いたのは違法たるを免れず、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。この意味において論旨は理由があり、前記両事件(甲、丙両事件)は、前述のように、合一に確定される必要があるから、全部破棄を免れない(なお、原告の被告常盤産業に対する本訴請求(甲事件)中、売買無効確認請求については、前述したところから明らかなとおり、原審において、さらに、その訴旨を釈明して審理をすべきである。)。

同第三点について。

所論の原告中島と被告常盤産業間の訴訟(乙事件)は、前記甲事件と丙事件に併合審理されたからといつて、通常の共同訴訟関係に立つにすぎず、民訴法六二条の準用を受けるいわれはなく、この点において、所論は失当として排斥を免れない。

なお、被告溝上において不関与のままに所論の証拠調がされ、その結果が所論の各事件にもそのまま証拠資料となることは、後記第四点において判断するとおりであるが、このような場合においては、同被告が自己の権利または法律関係の判断に必要と考えるときにあらためて必要な証拠の申出をすれば足りるのであつて、本件記録上、同被告においてこのような証拠の申出をした形せきがうかがわれない以上、原判決の訴訟手続には違法はない。

所論は、採用しがたい。

同第四点について。

原告と被告常盤産業間の訴訟(乙事件)に原告と被告溝上間の訴訟(甲事件)およびその訴訟に対する常盤産業株式会社の参加訴訟(丙事件)が併合されて、同一訴訟手続内において審理されることになつたことは、上告理由第一、二点において判断したとおりである。

そして、数個の事件の弁論が併合されて、同一訴訟手続内において審理されるべき場合には、併合前にそれぞれの事件においてされた証拠調の結果は、併合された事件の関係のすべてについて、当初の証拠調と同一の性質のまま、証拠資料となると解するのが相当である。けだし、弁論の併合により、弁論の併合前にされた各訴訟の証拠資料を共通の判断資料として利用するのが相当だからである。

したがつて、原告中島と被告常盤産業間の訴訟(乙事件)においてされた証拠調の結果が、併合された他の事件についても、前記認定の訴訟の経過のもとでそのまま証拠資料とすることができることを前提としてした原審の訴訟手続は相当であつて、この点に違法はない。

所論は、これと異なる考えを前提として原判決を非難するものであつて、採るをえない。

以上の次第で、原判決中、原告(上告人)と被告(被上告人)溝上間の請求事件(甲事件)および右事件に対する参加人(被上告人)常盤産業の原告(上告人)および被告(被上告人)溝上に対する当事者参加申出事件(丙事件)ならびに原告(上告人)と被告(被上告人)常盤産業間の請求事件(乙事件)中の売買無効確認請求に関する部分を破棄して、これを原審に差し戻すが、原告(上告人)と被告(被上告人)常盤産業間の所有権移転登記抹消登記手続請求事件に関する部分の上告を棄却することとし、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(五鬼上堅磐 横田正俊 柏原語六 田中二郎 下村三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例